家族信託ケース5【これからの共有を回避したい場合】
ご相談内容
大都市圏に暮らす82歳の父親です。息子(同居)とその妹である娘(他県で別居)がいます。自宅をアパートに建て替え、その1部屋で暮らしながら賃料収入を得ています。
将来、この実家と一体となったアパートは息子に譲りたいと考えています。財産はこの土地と建物(アパート)がほとんどで、現金等はあまりありません。
しかし、アパート建築時の借入金返済がまだ10年以上残っているそうです。相続税対策として始めたアパート経営ですが、他にやるべきことはないでしょうか。
家族信託を利用しない場合
?自宅兼アパート以外、資産はほぼない
?現在は長男と同居中。しかし、このままの状態で相続が発生すると・・・・・
このケースは相続税対策として借入れを起こしてアパート経営を始めたパターンです。確かにこれで相続財産の評価額を下げることができたものの、何も手を打たなければ相続時には別の問題が発生します。
それは、相続時に土地と建物(アパート)が、相続人である「息子と薄めの共有財産」となるリスクです。
共有になると、アパートの修繕や将来の売却を考えたときには、妹である娘と連絡を取り、承諾を得る必要が出てきます。そしてさらに、将来どちらかの意思判断能力が失われる事態になれば、もはや大規模修繕や売却などの処分ができなくなります。
共有を避けるには・・・
・娘に対し別途同価値(時価評価)の財産を準備し、遺言にその旨を残しておく
・息子から妹である娘に「時価評価に換算した代償金」を準備する
等の対策が考えられますが、この事例の場合は難しそうです。
家族信託を利用した場合
では、家族信託を利用するとどうなるでしょうか。
父親を委託者兼受益者、息子を受託者とする信託契約を結びます。そのうえで信託契約書の中に、父親の相続発生時には、受益権(信託財産から発生する利益を得る権利)の半分を息子に、そしてもう半分を娘に与える旨を明記します。
こうすることで、息子は父親の相続後も引き続きアパートの経営を自分の判断でできるとともに、娘は父親の遺産の半分を相続したことと同じ(賃料収入等の利益の半分を受け取る権利を持つ)ことになります。