家族信託ケース4【障害を持つ子のために資産を遺す】
ご相談内容
父親(50歳)と母親(48歳)の長男(20歳)は重度の障害を抱えており、判断能力がありません。自活も困難とされており、日常生活でもサポートが必要です。両親には長男以外子供はいません。両親は長男が今後暮らしていくために、不自由ない資産を遺すつもりですが
①自分たちが亡くなった後、長男の入居する施設などお世話になる人たちに、きちんと報酬を払いしっかりと長男の面倒を見てくれることを託したい
②長男が他界した段階で、自分たちが遺した財産に残りがあれば、そうした施設やお世話になった周囲の人たちにわずかずつでも渡したい
という希望を持っています。①については成年後見制度の利用に任せるしかないと思っていますが、②は無理だといわれてしまいました。仕方ないとあきらめるしかないのでしょうか?
家族信託を利用しない場合
成年後見制度を利用することにより、判断能力のない長男に代わり、その生活が最低限保証されるよう家庭裁判所の監督下で財産の管理を行うことは可能です。しかし、今回の事例のように成年後見制度においては、長男がなくなった時点の財産をどう処分するかを後見人に託すことはできません。長男が自らの意思で遺言書を残すことができないため、長男他界時に残った財産は、今回のようにほかに相続人がいなければ、国庫に納められてしまいます。
家族信託を利用すると
家族信託を利用するとどうなるでしょうか。
父親が委託者兼第一受益者、母親が第二受益者、そして長男を第三受益者とします(ここでは父親が母親よりも早くなくなると想定しています)。そして信託の受託者を、信頼できる第三者(親戚など)にします。
信託契約書には、第三受益者の死亡時の残余財産をどこに帰属させるかを指定します。この帰属先としては「お世話になった施設」「援助して下さった人たち」等を指定することができます。これにより、障害を持つ長男に対する両親の想いだけでなく、長男を支援して下さった人たちへの感謝も実現させることが可能になります。
こうした信託の形態をとくに福祉型信託と呼ぶ場合があります。福祉型信託の受託者は家族の一員である親戚等でも構いませんが、今回の事例のように、長男がまだ20歳である場合、長男の生涯を終えるまでの数十年間しっかりと長男を支え、かつ長男他界時の信託内容をきちんと実行できる必要があります。そのため、受託者としては福祉団体、NPO法人といった非営利団体や、信託会社など、組織として対応できる先を定めることが望ましいと考えます。