家族信託ケース2【アパートのオーナーの場合】
ご相談内容
アパートを2棟持っている父親がいます。子供は男女1人ずつです。父親は自分でアパートの管理を行っていましたが、ある日、庭の手入れをしていたときにつまずいて、頭を打ち入院してしまいました。今も意思判断ができない状態が続いています。
現在、アパートに新規入居希望者などが出た場合は、長男や長女が父親の代わりに賃貸借契約書を代筆しています。なにか問題はあるでしょうか。
家族信託を利用しない場合
?父親が所有し、自分で管理しているアパートが2棟
?賃貸借契約などは父親の代わりに長男や長女が代筆している
まず、家族信託を使わなかった場合どうなるでしょうか。
賃貸借契約は法律行為ですから、たとえ家族であってもお父様名義の契約の主催者になることはできません。ましてや、意思能力や判断能力がなくなっている状態のお父様があたかも判断をしたかのような体裁(代筆)を権限のない家族が行うことには、実は法律上大きな問題があります。
同様に、今の状態では、将来発生する「大規模修繕」や「建替え」「売却」といった判断を必要とする行為は、原則的に行うことが難しいといえます。
家族信託を利用すると
次に、家族信託を使うとどうなるでしょうか。次の図のようなスキームで検討してみてください。
不動産はアパートが2棟あって、子どもは男女1人ずつですので、所有者であるお父様を委託者として、たとえばA物件についてはご子息様を受託者とします。そして利益(この場合は家賃)を受け取る権利はお父様、つまり受益者はお父様とします。B物件についても同様にお父様を委託者兼受益者とし、ご息女様を受託者とします。そしてお父様が元気なうちは、ご子息様、ご息女様と一緒にアパートを管理すれば問題ないでしょう。
もし将来、お父様が意思判断や判断能力を失う事態に陥った場合、今度は受託者であるご子息様、ご息女様が明確な財産の管理処分権限をもって、「賃貸借契約」はもとより、「大規模修繕」や「建替え」、もしくは「売却」といった行為が可能です。
何よりも、信託契約書には、将来相続が起きた場合、それぞれの物件の承継先を、A物件はご子息様、B物件はご息女様としておけば、別途遺言で指定したり、相続発生後に遺産分割協議をしなくても、自分の意思どおりに相続させることができます。